オオカミは浮気をしないらしい





「昔、友達が言ってた オオカミは浮気をしないって」


私が唐突に言った言葉に目の前の剣士は飲んでいたコーヒーをテーブルに置きこちらを見る
面白半分、いや皮肉に言った言葉に対して余りにも真剣な目をしていたので血管が凍る
彼女は俗に言う一匹狼だ


「私の“オオカミ”はどうかしらね」


嗚呼、私は本当にいやな女だ
彼女は腕を組み下を向いている



暫くして、外の美しい景色を見ようと私は座っていたソファーから離れ窓のそばのイスに腰を下ろす
窓の外で鳥は歌い、踊り、花は風と遊んでいる
静かな森にたたずむ小さな家
滅多に人は来ないし、町からは大分離れているが私はこの家が大好きだ

窓から入り込む木漏れ日と優しい風にうっとりしながらそんな事を考えていると、突然後ろからフワリと抱きしめられた

「私は一回も浮気をした覚えはない」



耳元で呟かれる

知っている
この人の忠実で優しくて美しい心も私は知っている


「・・・・っ・・・・だって・・・・全然戻ってこないじゃな・・・・い・・・・っ・・・」


こんな事を言うと彼女を困らせるのを知っているのに


「寂しい思いをさせて悪いと思っている」


抱きしめる力が強くなる
愛されていると実感できる
それでもいつも一人でいる寂しさの埋め合わせは出来ない


「なかなか戻れないのは分かってるわ・・・・・・・でも・・・・っ・・・・」


涙が止まらない
今回は泣くまいと思っていたのに


「すまない。 泣くのをやめてくれ、頼むから・・・・私まで悲しくなるだろう」
「分かってるわ・・・・でも・・・・・・・・・んっ・・・・・・・」


突然顎をつかまれ口を塞がれる

嗚呼、幸せだ

意識が遠のくのが分かる





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





「ぁ・・・・・・・」
「起きたか、おはよう」


目が覚めると彼女の膝の上で寝ていた
少し恥ずかしい気もしたが嬉しかった


「行かないでくれたのね ありがとう」
「私が別れを告げずに行くわけがないだろう」
「そうね・・・・」


こんな他愛もない会話さえも嬉しい


「さて、私はそろそろ出る」


一気に現実に引き戻される気がした
白い羽根付き帽子を被り剣を腰から提げると何だか無性に寂しくなる


「そうだ、言い忘れた、オオカミよりワシのほうが浮気しないんだよ」
「え?」


いきなりそう言われるとどうしていいか分からない


「だが、私はオオカミよりもタカよりも浮気しない 誓うよ」



その微笑みはそよ風よりも、木漏れ日よりも、何よりも優しい
世界に名を轟かせる大剣豪の彼女のこんな姿を知っているのは私だけだろう


「ふふっ 信じてるわ」




「では、行ってくる」
「気を付けてね」


あぁ、と短く呟く彼女が私を抱き寄せる


「・・・・・・・愛してる」
「・・・・っ・・・私も・・・よ・・・・」


今度こそ別れるときは泣くまいと思っていたがまた泣いてしまう


「泣かせるつもりで言ったのではないのだが・・・・」
「ふふ・・・ごめんなさい・・・つい・・・ね?」
「君はいつまでたっても少女のようだな」
「だって、これ以上歳をとることもないのよ あなたも、ね」


また、抱きしめられる
今度はさっきよりも強く


「私が必ず魔法を解いてみせる 必ずだ」
「頼もしい王子様ね お姫様かしら?」
「やめてくれ、そんな柄じゃないだろう」


はにかむとポケットから小さな馬の置物を取り出し呪文をかけた
馬の置物は見る見る大きくなり本物の馬になった


「それじゃ、行ってくる」
「ええ、待ってるわ いつまでも」


彼女は私の頭を撫で馬に跨る
馬は棹立ち、勢い良く地面に着き天馬の如く駆け抜ける


行ってしまった

どうか、彼女が無事で戻ってきますように



「今日もいい天気ね」


静かな森に声が響く



嗚呼、今日もいい天気だ



嫌になるくらい



















あぁああああああああ
いいおわりかたがみつからなああああああああああああああい!!!!!!!!!
ということで、見つけたら変更いたします(